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2010年01月30日

ぴんぴんころり?

今日,外来をしていたらショックなニュースが入ってきた.外来でずっと診てい
た患者さんが,亡くなられたというのだ.


患者さんは高齢者.以前,お風呂で意識を失い誤嚥からの肺炎で入院したとき担
当した方.記名力障害と高血圧のほか,頻尿,そして何故か足が前に出ない,と
いう症状があった.表情豊かで震えもなし,パーキンソンとか診断つけるには不
自然だったので退院後は外来で漢方薬で調整していた.牛車腎気丸や苓姜朮甘湯
という薬を使って頻尿や足の動きはある程度はよくなったんだけれど,でもある
程度以上はびくともしなかった.でも,なんか気に入っていただけて,一ヶ月に
一度のおしゃべり外来を,混んだ外来でこっそりお互い楽しみつつつ2年近くの
付き合いになっていた.

今日はその方の外来の日.けれど患者さんはいらっしゃらなくて,いつも一緒に
来ていた娘さんだけ.聞くと,2週間前に亡くなられたとのこと.お風呂で,水
に顔をつけた状態で発見されて,救急搬送・心肺蘇生も効果なかったと...そ
れを伝えにご家族がきてくれたのだった.

2年前に同じようなことあったから,ご家族もその方のお風呂はずっと気にされ
ていたのだけれど...
仕方はないとはいえ,ショックだった.


…ここ佐久にはぴんころ地蔵という地蔵がある.お参りするとぴんぴんころりと
なくなることができるというのだ.そういった名所は日本各地にある.ぴんぴん
ころり,憧れる方は多い.けれど,ほんとうにそれはいいものなのだろうか?

ぴんぴんころりといえばいい響きなのだけれど,それは急死,に近い.それは,
周囲が大きなショックを受けることがほとんど.死への準備ができていないから
だ.
人生,長い道のり,たくさんのことが詰まっている.それはやっぱり,きちんと
締めくくりたいのが人情というもの.いろんなひとに囲まれてゆっくり息を引き
取りたいし,周りもじっくり準備したいものじゃないかな.

その意味で,高齢者の癌は悪くはない.終末が見えるというのは死の恐怖と向か
い合わなければいけないということだけれど,けれど,すごく難しくはあるのだ
けれどそこを乗り越えれば,終末への準備に適度な時間をもらえる.今は痛みも
ほとんどコントロールできるし.ほかの病気は,そうはいかない.終末がいつか,
なかなかわからないから.


ぴんぴんころり.あるときの急な死.
できれば,避けたいもの.
終末に寄り添わせていただくというのが大事な仕事のひとつである在宅医として
は特に,そう思う.

今日は久しぶりに好きなレストランまで出てきてゆっくり時をかみ締めつつ,そ
んなことを考えていた.

2010年01月21日

いい医者?

昨日は,疲れた.
うちの診療所の在宅登録患者,けれどまだ登録後日が浅くて,自分自身は機会な
くて初めていく患者さん.それが,いよいよ脳血管障害の終末期という連絡が訪
問看護ステーションから急に連絡が入った.嚥下機能低下が進み確かに何度かミー
ティングで話題になっていたから知ってはいたけれど...でも,自分は初めて.
さて,どうする... 看取りは在宅?それとも入院...?

午後は外来あるから昼休みの短い時間での訪問.初めてのお宅で,患者・家族の
生活をはかりとりとるべき距離を測りつつ,患者さんと家族の人生観を写真など
などのご自宅のご様子とかいろいろな情報も使いつつ短時間で読み取り聞き取り
つつ,どこに介護的限界があるのかをはかりつつ,患者さんとご家族にとって一
番いいかたちはなんなのかなぁ,と考えつつ,以前から考えてもらってたとはい
え人生で最後の重要な決断を短時間で家族に迫り... 結局いろいろな状況から
やっぱり看取り目的の入院になったのだけれど,いろいろな患者さんの迷いを感
じてしまって疲れ果て,看取り入院は医者にとってやることないから医者には嫌
な顔されていろいろ注文されて...

へろへろになってそのあと外来して,そのあと書類仕事を片付けて,へろへろと
コーヒーのみつつふらふらしていたら,先輩心療内科医が,アドバイスをくれた.
以前していた質問への,先輩なりの答えだった.


以前,こんな質問をしていた.
「心療内科,そんなに患者さんから話を聞いていて,くたくたにならないですか.
消耗,しすぎないですか・・・?」
患者さんの言葉を受け止めすぎて,ぼくはしばしばぼろぼろになってしまう.来
年,精神科を身に着けたいとローテートを希望しているのだけれど,でも,自分
のこころを守りきる自信が,少し,ない.それで,聞いてみたのだ.
すぐには適切なことばが見つからなかったから,時間をおいて,それに丁寧に答
えてくれたのだ.

先輩の回答は,
「患者さんから元気をもらえばいい」

自分の診療がうまくいっているときは,自分も患者さんから元気をもらっている
のがわかるというのだ.先輩自身も頻度はまだ高くはなくて修行中なのだそうだ
けれど.

限りある自分の元気.与えようとしていたらすぐ尽きてしまう.実際,若いうち
は元気なのだけれどエネルギーを出し尽くして燃え尽きる医者はたくさんいる.
燃え尽きないためには,患者さんから元気をもらえばいい.元気をもらって,渡
して,その回転がうまくまわったときは,自分だけではなくて患者も元気になっ
ていく.

確かに.そんな気はする.何人か,そんな感じがある患者さんが,実際ぼくが担
当した中にもいる.まだ,ごくごく一部だけれど.

与えよう,なんて押し付けているのは,押し付けがましい医療,なんだろうな.


いい医者ってきっと,患者さんから元気をもらえる医者.
修行せねば.
そう,思った.