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ぴんぴんころり?

今日,外来をしていたらショックなニュースが入ってきた.外来でずっと診てい
た患者さんが,亡くなられたというのだ.


患者さんは高齢者.以前,お風呂で意識を失い誤嚥からの肺炎で入院したとき担
当した方.記名力障害と高血圧のほか,頻尿,そして何故か足が前に出ない,と
いう症状があった.表情豊かで震えもなし,パーキンソンとか診断つけるには不
自然だったので退院後は外来で漢方薬で調整していた.牛車腎気丸や苓姜朮甘湯
という薬を使って頻尿や足の動きはある程度はよくなったんだけれど,でもある
程度以上はびくともしなかった.でも,なんか気に入っていただけて,一ヶ月に
一度のおしゃべり外来を,混んだ外来でこっそりお互い楽しみつつつ2年近くの
付き合いになっていた.

今日はその方の外来の日.けれど患者さんはいらっしゃらなくて,いつも一緒に
来ていた娘さんだけ.聞くと,2週間前に亡くなられたとのこと.お風呂で,水
に顔をつけた状態で発見されて,救急搬送・心肺蘇生も効果なかったと...そ
れを伝えにご家族がきてくれたのだった.

2年前に同じようなことあったから,ご家族もその方のお風呂はずっと気にされ
ていたのだけれど...
仕方はないとはいえ,ショックだった.


…ここ佐久にはぴんころ地蔵という地蔵がある.お参りするとぴんぴんころりと
なくなることができるというのだ.そういった名所は日本各地にある.ぴんぴん
ころり,憧れる方は多い.けれど,ほんとうにそれはいいものなのだろうか?

ぴんぴんころりといえばいい響きなのだけれど,それは急死,に近い.それは,
周囲が大きなショックを受けることがほとんど.死への準備ができていないから
だ.
人生,長い道のり,たくさんのことが詰まっている.それはやっぱり,きちんと
締めくくりたいのが人情というもの.いろんなひとに囲まれてゆっくり息を引き
取りたいし,周りもじっくり準備したいものじゃないかな.

その意味で,高齢者の癌は悪くはない.終末が見えるというのは死の恐怖と向か
い合わなければいけないということだけれど,けれど,すごく難しくはあるのだ
けれどそこを乗り越えれば,終末への準備に適度な時間をもらえる.今は痛みも
ほとんどコントロールできるし.ほかの病気は,そうはいかない.終末がいつか,
なかなかわからないから.


ぴんぴんころり.あるときの急な死.
できれば,避けたいもの.
終末に寄り添わせていただくというのが大事な仕事のひとつである在宅医として
は特に,そう思う.

今日は久しぶりに好きなレストランまで出てきてゆっくり時をかみ締めつつ,そ
んなことを考えていた.

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