« ぴんぴんころり? | メイン | なぜ僻地医療は崩壊したのか? »

思い出にのこる患者さん

在宅医をして1年弱。そんな短い期間でも、こころに残る患者さん何人にも会わ
せていただいた。そんな患者さんのひとりについて、思い出してみる。


患者さんは認知機能低下ある90代の女性。
7年ほど前に胆管結石・胆管炎で手術。その後意欲・食欲低下。胃ろうや中心静
脈栄養で医学的加療行うもよくならず。しかし、家族によるりんごの料理をきっ
かけに経口摂取可能になる。その後、診療所から訪問診療を行っていた。医者が
いくととても喜んでくれて、歌を歌ってくれたりしていた。

そんな患者さんが、いよいよ状態が悪くなってきた。衰弱進み反応低下、下肢の
浮腫が進行。採血すると低アルブミン血症、低亜鉛血症ある。

どうするか。
じっくりご家族と話をすると、薬物治療は望まれない。確かに、これから亜鉛等
々を補正したところでよくなるとは思いにくい。薬なしで様子をみることに。
一度は訪問診療の回数を月2回に増やすも、特に医学的介入ですることもないた
め家族の希望あり月1回に減らす。
その後、徐々に浮腫悪化、レベル低下しつつも半年経過。が、いよいよ、のとき
がくる。状態が低下しているからと往診。確かに、以前のような受け答えなく反
応にぶい。いよいよかもしれない、そう告げて帰る。
翌日早朝連絡あり。朝、家族が見に行くと息を引き取られていたとのこと。駆け
つけると、家族は穏やかに患者さんを見守っている。

前日のことを聞く。昨夜もご飯をいつもの量たべたとのこと。食べ終わると、
「おいしかった。ありがとう」と普段言わないことを言う。へんだなぁ、と家族
も感じていた。そして就眠。翌朝、息をしていなかったと。


素敵なひとだなぁ。そう思った。
最後の言葉が「おいしかった」というのは、患者さんから家族へのほんとうの気
持ちだったんだろう。

家族がそこにいる。医者やることなし、出番なし。それはとても素敵なことだと
思う。


「おいしかった。ありがとう」
自分も、家族に最後にそういってもらえるように努力したい。とてもとても、難
しいことだけれど。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://dream-hosp.net/cgi/mt/mt-tb.cgi/2819