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2009年03月30日

医師後期臨床研修制度のあり方に関する研究班 報告書

とても興味がわく報告書がアップされていたので報告です。

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「医療における安心・希望確保のための 専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)
のあり方に関する研究」班 報告書
http://medtrain.umin.jp/research/sokatsu.html


◆◇研究班の総括報告書の骨子を公開しました◆◇
本研究班では、9月22日の発足からこれまで11回の班会議を開催し、議事および
資料を公開し、国民の皆さまと議論を共有しながら、幅広くご意見をお伺いして
まいりました。研究班の活動につきましてご理解、ご支援くださいました関係各
位に御礼申し上げます。このたび研究班の総括研究報告書の骨子を取りまとめま
したので、ご報告いたします。
「研究班トップページ」からお入り下さい)
http://medtrain.umin.jp

◆◇第11回班会議(最終回)を開催しました◆◇
我が国の土壌にあった医師の後期臨床研修制度のあり方と研究班報告書の骨子に
ついて、公開にて議論を行いました。多くの傍聴の方のご参加をいただき、御礼
申し上げます。

◆◇用語集を掲載しました◆◇
研究班にて議論し、本研究班での報告書に用いた用語集をホームページに掲載し
ました。
http://medtrain.umin.jp/etc/term.html

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(以下、小池の私見)

「専門医・家庭医」と研究班の名前はなっていたところが、
報告書の前のほうにみられるように徹底的に家庭医・総合医について議論され、
「家庭医・総合医、専門医の養成プロセス…」というように、それが前に出てき
たのは、家庭医・総合医の後期研修をしている自分としてはちょっとうれしかっ
たです。

…なんで、家庭医・総合医があんまり重要視されないのか。
それは、病院という効率的にデザインされた患者の人生の中では(基本的には)
瞬間的な空間で、専門医療はひとの生命を救うために全力を尽くす。対して、患
者の生活や街の中という時間的にも空間的にも幅がある空間で、家庭医・総合医
はひとのいのち・人生をサポートするのに全力を尽くす。
おそらく後者は、幅がありすぎて不明瞭。把握しにくくて評価しにくい。それは、
医者にとって満足しにくい、または満足と自覚しにくいということ。

でも、医学と生活という基本的だからこそ整理されてこなかった境界領域である、
家庭医・総合医。ここが整理されて元気になれば、きっと医療全体で歯車がかみ
合ってくるのでしょう。
だからこそ、この研究班では多くの時間をその議論に使ったんだろうな、と感じ
ました。


…肝腎の骨格、『卒後医学教育認定機構(仮称)の創設』について。
医者を、「人手が足りない科に行かせればいいんだ」「僻地に送ればいいんだ」
という単純な議論を乗り越えるためにも、ほんとうにその部分は整理しなければ
いけないところだと感じます。
きちんと動ける医者を配置しなければ、そしてその場所で働くことに喜ぶ医者を
配置しなければ、医療の問題は解決し得ない。それがわからないと、上の2つの
ような単純な議論になる。そのあたりを整理するためにも、明瞭なかたちで卒後
教育問題は整理されないといけない。


某病院評価機構のように、どこまで患者と病院のためになっているのかわかりに
くい仕組みにならなければいいけれど。

2009年03月15日

第11回信州脳神経漢方研究会抄録

昨日頼まれて、第11回信州脳神経漢方研究会というところでちょっとプレゼンをしてきた。抄録をアップしてみます

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腎虚と考えられる症状あり漢方治療にて軽快した2症例

 手術や仕事といったストレスは、全身衰弱、抑うつ、思考力低下、めまいといったさまざまな症状の誘引となる。従来の治療方法では、休息と、多くの場合不十分な対症療法のほかには治療方法はない。対して漢方治療は消耗を補う治療を得意としている。今回、ストレスからの症状に対し、腎虚進行と判断し漢方治療を行ったところ奏功した2例を報告する。
 症例1は80代男性。胃癌に対するESD術後2ヵ月間継続する認知力低下を主訴に来院。HDS-R 21/30(短期記憶低下)。以前から冷え性と夜間頻尿、難聴、腰痛あり。腎陽虚と判断し八味地黄丸(TJ-7)5.0g分2処方。1ヶ月で全身倦怠感軽減、2ヶ月で認知能力回復した。
 症例2は50代男性。10年前より難聴傾向あり。近年仕事が忙しく、ストレスも多く消耗していた。スポーツを趣味としており活動的で冷えはない。腎陰虚と判断し六味丸(TJ-87)2.5g分1内服開始。2週間後、全身倦怠感軽減。3週間後、頭髪のはりを自覚。希望あり以後内服継続している。
 東洋医学的に腎は先天の気を貯蔵しており、骨、耳、髪、思考力等の機能を司る。腎は加齢とともに消耗し、それらの臓器の機能も加齢とともに低下する。六味丸、八味地黄丸、牛車腎気丸等の補腎の漢方薬はそれらの機能を回復させる。今回の2症例はともに加齢による腎虚をストレスが促進させ出現した症状であったため、腎機能を補う治療により症状が改善した。これらの症例のように、仕事や手術といったストレスを誘引とした中高年男性の不定愁訴は頻度も高く、治療薬としての補腎の漢方薬の適応は従来考えられているものより広い可能性がある。

2008年03月21日

胸部単純写真による肺炎、および抗酸菌感染症の画像診断

胸部単純写真による肺炎、および抗酸菌感染症の画像診断

肺炎を胸部X線だけでどこまで考えれるんだろう…と本で調べてもまったくもってわからないのでネットでしらべてみたら、とても勉強になるページを見つけた。沖縄の医師会報の記事だけれど、とてもとても面白い。ぜひ一読を。

2007年11月26日

Cutoff pointがぐちゃぐちゃでわけが分からない…

Cutoff pointがぐちゃぐちゃでわけが分からない…

まだ科不適合を起こしている…。産婦人科を回っていて毎日昼ごはんご馳走してもらったり、お世話にはなってはいるのだけれど、どうにも理屈が読みきれない…

産後のとても元気なひとのCBCをどうしてとる必要があるのだろう…。少し調子が悪かったってまってれば治るだろうし…。Hbが下がっているとすれば持続的な女性器または腹腔内の出血とか考えるのだろうけれど、だったら痛みとか結膜の貧血とかなにより訴えがあるだろうし。WBCも炎症や感染みえるとはいえ、発熱や痛みなどの訴えがないときにどこまでいみがあるのか…。だいたい、CRPだって測る意味もどこまであるのか…。検尿だって、浮腫とか高血圧とかないときにどこまで測る必要があるのか。顔見ないでもひっかけられるルーチンの大切さも分かるけれども。でも、検査値以上に顔色の変化のほうがずっといろいろわかると思うのだけれど。
まあ、仕事の遅い自分は特に、ルーチンは他の作業をする余力をつくるためにたいせつだとはつくづく思う。

でも。

どこまでがルーチンなのかマニュアルなくてよくわからないから…と生化学基本セットまで入れると、ムダだ、と文句を言われてみたり…。そもそものルーチン検査自体にムダがあるんだから、生化学がムダだなんて、わかんないよ…。そういった、微妙なラインを読みきれず、バカにされ、消耗していく。
同じ針さすんだったら、どうせムダな検査だし、基本セットだったら検査室でもルーチンな作業だろうから大して手間もかかんないだろうし、どうでもいいじゃないか。

あああああ。

新生児のビリルビン採血にもつかれた。ミノルタのあるこの時代、ルーチンで採血・計測する必要がどこまであるのか。まあ、それまでならいい。どうして検体を検査に送ろうとしたら、医者が計測するという前提を持っていなかったら、バカにされなきゃいけないのか。医者が計測するなんて大学くらいじゃないか。そんな非常識、知らないよ…。赤ちゃんになんども針をさすはめになってかわいそうだけれどそれは俺の責任か。常識が通用しない大学病院なんてきらい。

あああああああ。疲れる。

コストとリスクとアウトカムを考えたとき、その評価者の経験と気分でいくらでもcutoff pointなんて動くもの。それぞれの科でそれぞれのcutoff pointがあるのだろうけれど、自分たちの科と同じ前提がないとバカにするのは、疲れる。いちいち自分をtuningしなおさないといけないのも、ほんとに疲れる…。
でも、そのあたりにパッと阿吽で馴染む研修医が、「正しい研修医」とされるのだろうな…。
いちいち悩む研修医は、バカとされるのがこのスーパーローテートなんだろうな。

ふぃ〜〜〜

2007年09月16日

いまの初期研修って…

今週、楽しみにしていた地域医療研修で診療所の外来診療に入っています!
ずっと、医療過誤訴訟吹き荒れる中での研修医の保護もあり、決断・決定できな
い研修が続いていた中(野戦病院に行かなかったせいではあるけれど…)、気力
充実した昼の時間での外来診療はとても充実した学びがあって、嬉しさを感じる。

そんなときに気になる記事を見つけました。

 日経メディカルオンライン
 ◆9.13 新臨床研修制度の光と影―医師953人の意見
 http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_7799_134249_5

いろいろ生々しい典型的な意見が並び、いろいろ考えてしまいました。

そしてふと自分も今まで自分が今まで受けた中で最高だったなぁと感じた指導っ
てどんなものだったのかも、考えてみた。
で、マンガ「ヒカルの碁」のような世界があったな、と感じました。。
(そのマンガの大雑把なあらすじは、碁なんて知らない小学生に碁の神様のよう
な幽霊が取り付く。幽霊は石をもてないから、その小学生に手を動かしてもらう
ことで碁をうつ。そこで手を動かし、対局者たちの間で勝負を見ていたその男の
子は、急速に成長していく。というもの)

碁とか将棋とか、様々ある勝負の世界って、そこで戦っているひとにしか見えない
領域がある。
患者さんの病気と向き合う医療という勝負の現場も、やっぱりそうだと思う。い
ろいろ本を読んだりイメトレしたりしても到達できない領域が、(能力が届いて
いれば)現場に立ったときに見えてくる。きっとそれが、現場を経験する、症例
を経験する、ということなんだろう。
そして、一流の医師と一級の病気の勝負の間に研修医ながら立たせてもらえたと
き、一流の視野が見えてくることがあった。一流の医者の思考方法を、傍観では
なく、勝負の現場で体験させてもらえたとき、膨大な学びをさせてもらえること
があった。
研修医の成長のためには講義とか様々なことは必要なのだけれど、もっとも大き
く成長させてくれるのは、そんな一流の勝負、のはず。

スーパーローテートで研修をしていてとてもストレスなのは、そこまでとてもとて
も到達できないこと。
一流の勝負の間に立たせてもらえるにはそれなりの準備が必要。知識だけでなく、
上級医との個人的な関係や、その現場のシステムにどれだけ馴染んでいるか、な
どなどいろいろな準備が必要不可欠。不器用なぼくなどはそれがなかなかつくれ
ずあがいているうちにいつも、次の科に異動になる。
ただ手を動かしているだけ、傍観者であるだけ、のうちに次の科に異動になる。
1〜2ヶ月で異動して、異動先でカルチャーショックでふらふらになっていろい
ろ再構築しているうちにまた次の科、という繰り返しは消耗する。
もちろんそんなのは、不器用な一部の研修医のうめきに過ぎないところはあるだ
ろうけれど。


えらいひとたちや傍観する評価者たちが根本的に勘違いしていることがあると思
う。
スーパーローテートで小児・産婦含めいろいろな科をまわっても、研修医は、見
て回ったといううすっぺらい上っ面な「体験」をしても、永続的に身につく「経
験」は得ることはなかなかできない。上に書いたように短い期間じゃ経験するに
必要な準備はできないし、また、ストレート研修のときにあったようなその科の
学びで生きていくんだという覚悟もない。
だから、経験まで届かない。
研修終って身につかないのは研修医の責任なのか?
もちろん以前の研修にもたくさんの問題はあったけれど、でも深くも大きい弱点
を今の制度は持つ気がする。いまの制度は馴染んでいないということはあるだろ
うけれど。でもその大きな弱点が完全に克服される未来がくるのかな。でも、ど
んな仕組みも穴は消せないからしょうがないのかな。


ともあれ。
学びの多い勝負の視界を後輩にみせれるような先輩に、未来にはなりたいもので
す。努力せねば…。

2007年08月28日

悪が得するアク〇ス?

pioglitazone(商品名はタケダの「アクトス」)について。
糖尿病ガイドラインではけっこう大切に書かれています。
参考:
 http://www.mnc.toho-u.ac.jp/mmc/guideline/list1-2.htm#tonyo
 http://minds.jcqhc.or.jp/G0000107_0046.html
でも最近、心不全の副作用で新聞をにぎわせたりしていたみたいです。浮世離れ
した生活にいる研修医な自分は知らなかったのですが(汗)、このあたり、読み
やすいです。
 http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=163


●The Lancet 2005; 366:1279-1289

"Secondary prevention of macrovascular events in patients with type 2
diabetes in the PROactive Study (PROspective pioglitAzone Clinical
Trial In macroVascular Events): a randomised controlled trial"

という論文があって、
(Pubmedで検索して読んでみましょう☆
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=pubmed )

"Pioglitazone reduces the composite of all-cause mortality, non-fatal
myocardial infarction, and stroke in patients with type 2 diabetes who
have a high risk of macrovascular events."

と結論づけているています。
タケダのMRはこれをもって、「アクトスはEvidenceがあります!」と売り込みま
す。400億円の売り上げのある薬らしいですから、たいせつです。

のだけれど。

ACP Journal club http://www.acpjc.org/
(American College of Physiciansの出している雑誌)
では、そのデータを使ってこう論じています。

●ACP J Club. 2006 Mar-Apr;144(2):34.
"Pioglitazone did not reduce a composite endpoint of macrovascular
complications and increased risk for heart failure in type 2 diabetes
with macrovascular disease"

とまったく逆の結論なのです。

ACPのほうでは1ページの中で上手に種明かしをしてくれています。
Lancetは、5238人でのその試験ではじめに設定した6項目(Primary composite
endpoint)ではひとつも有意な差のある結果は出なかったため、おそらくは期間
を延長してデータを3項目についてのみさらに集めて(“Main secondary”
composite endpoint)何とか有意差のあるデータを導いた、ということみたいで
す。
すでに「Randomized placebo-controlled trial」なのかどうかは疑わしい状態
で、でも、有意な差といってもNNTは49 (27 to 407)。つまり、のみつづけただ
いたい49人のうちのひとりが、pioglitazoneで得をするかもしれない、という状
態。

ACPはそのデータでさらに続けます。
pioglitazoneでは心不全の副作用がでる。そのNNHは23(16 to 38)、とのこと。
つまり、もしかするとpioglitazoneをのんだ16人にひとりは心不全おこすよ、と
いうこと。

ACPはそうやってまとめたうえで、
" Pioglitazone did not reduce a composite endpoint of macrovascular
complications and increased risk for heart failure in type 2 diabetes
with macrovascular disease"
と結論しているわけです。

有名な雑誌も眉につばつけて読まねばならない、という例ですねぇ。
常識的な治療方法、もやっぱり不安なところはある、という認識もたいせつなの
でしょうね。
そして最も重要なのは、こういった情報を「楽して!」みつけるという手法なわ
けです。
「楽して探す」「楽して読む」けれど「批判的に読む」「目の前の患者の利益に
あてはめる」EBMはやっぱりたいせつです。がんばらねばっ!


ついでに。
このあたりの新聞記事も一緒に読むと面白いかもしれません。

http://health.yahoo.co.jp/news/detail?idx0=w02070801
http://health.yahoo.co.jp/news/detail?idx0=w02070601

ともあれ。
世界経済の中でなんとかがんばり日本経済に貢献してくれているタケダの400億
の売り上げが、どうなることやら。今後に注目です。